01クローン病って どんな病気?
監修 東邦大学医療センター佐倉病院
内科学講座 教授 松岡 克善 先生
クローン病は、1932年にニューヨークのマウントサイナイ病院のブリル・バーナード・クローン医師らによって初めて報告された病気です。報告者の名前から「クローン病」と呼ばれるようになりました。クローン病は消化管に慢性的な炎症が起こります。炎症は口から肛門まで消化管のどの部位にも炎症が生じる可能性があり、特に小腸と大腸に多くみられます。現在の治療では、病気を根治させることはできませんが、適切な治療をして炎症が起こりにくい状態を維持することで、制限のない普通の日常生活を送ることも可能です。
クローン病は主に
腸に炎症を起こす病気です
腸の病気は、粘膜に炎症が発生して腸がうまくはたらかなくなる「炎症性腸疾患」、腸のはたらきが乱れて下痢や便秘などを起こす「機能性腸疾患」、大腸がんなどの「腫瘍」の3つに分けられます。腸の粘膜に慢性炎症を起こすクローン病や潰瘍性大腸炎は、「炎症性腸疾患」に分類されます。
クローン病と潰瘍性大腸炎は、原因がはっきりとわかっていないところは同じですが、炎症を起こす場所が異なります。クローン病は消化管のどの部位にも起こることがあり、潰瘍性大腸炎は大腸に限られます。
クローン病と似た症状を示す、過敏性腸症候群という病気があります。この病気は、下痢や腹痛、便秘などをくり返しますが、検査では異常がみられず、原因ははっきりとわかっていません。クローン病と過敏性腸症候群は検査によって鑑別できるので、症状をくり返して心配という方は医療機関を受診しましょう。
クローン病は
重症度により 分類されています
炎症部位、症状のクローン病は人によって症状がさまざまです。炎症がどこに発生しているか、症状の程度によって分類します。クローン病を正しく分類することで、適切な治療が可能となります。
病型分類
炎症が起こる場所によって、3つの病型にのみ分けられています。小腸のみに起こる小腸型、小腸と大腸に起こる小腸大腸型、大腸のみに起こる大腸型です。また、腸以外の皮膚や関節、眼、口の中などに症状があらわれることもあります。小腸の終わりと大腸がつながっている回盲部(かいもうぶ)は特に炎症が起こりやすいとされています。
重症度の評価方法
重症度の評価方法はCDAIスコアやIOIBDスコアなど、いくつかの指標が使われています。CDAIスコアは1週間にわたる、臨床症状、血液検査の結果などさまざまなデータを組み合わせて「軽症」、「中等症」、「重症」と判定します。日本では、CDAIスコアと合併症、炎症の程度、治療反応を組み合わせた重症度分類を使用しています。
CDAIスコアを使用した
重症度分類CDAI | 合併症 | 炎症 (CRP値) |
治療反応 | |
---|---|---|---|---|
軽症 | 150〜 220 |
なし | わずかな上昇 | |
中等症 | 220〜 450 |
明らかな 腸閉塞など なし |
明らかな上昇 | 軽症治療に 反応しない |
重症 | 450< | 腸閉塞、 膿瘍など |
高度上昇 | 治療反応 | 不良
令和3年度 改訂版 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業. P32, (2022)
IOIBDスコアは、10項目を使用して、「寛解期」、「活動期」のどちらに該当するか判定します。医療費助成の可否を判定するためにも使われ、1項目を1点とし、2点以上該当した場合に、医療費助成の対象となります。医療費助成制度についてはこちらです。
IOIBDスコア
1 | 腹痛 |
---|---|
2 | 1日6回以上の下痢あるいは粘血便 |
3 | 肛門部病変 |
4 | 瘻孔 |
5 | その他の合併症 |
6 | 腹部腫瘤 |
7 | 体重減少 |
8 | 38℃以上の発熱 |
9 | 腹部圧痛 |
10 | 10g /100mL以下のヘモグロビン値 |
The O.M.G.E. Multinational Inflammatory Bowel Disease Survey 1976-1982. A further report on 2,657 cases, J. Myren et al. Scandinavian journal of gastroenterology. Supplement, 1984, Informa Healthcare, reprinted by permission of the publisher Informa UK Limited trading as Taylor & Francis Ltd, http://www.tandfonline.com
各項目に当てはまる場合は1点、当てはまらない場合は0点として10項目の合計を計算します。スコアが1点又は0点で寛解期、2点以上で活動期と判断します。
IOIBD:The International Organization for the study of Inflammatory Bowel Disease(炎症性腸疾患の研究のための国際機関)
患者さんの多くは
10~20代でクローン病を 発症し、 患者さんの数は 年々増加しています
クローン病は10~20代で発症することが多い疾患です。最も多くみられるのは、男性で20~24歳、女性で15~19歳です。男性と女性の比は、約2:1と男性に多くみられます。
クローン病の推定発症年齢
現在、日本にはクローン病患者さんは7万人以上いると報告されています*1。特定疾患医療受給者証交付件数でみると、1976年には128人でしたが、2013年は39,799人、2019年には44,245人となり、年々増加傾向にあります*2。
*1 Murakami Y, et al.: J Gastroenterol, 54(12):1070-1077(2019)*2 難病情報センター(https://www.nanbyou.or.jp/)最終アクセス:2022年6月
クローン病医療受給者証
交付件数の推移クローン病の発症には、
さまざまな要因が関連すると考えられます
クローン病の原因はまだわかっていません。しかし、クローン病になりやすい遺伝的な体質に加えて、食事やストレス、喫煙などの環境因子が影響して、消化管に慢性的な免疫異常が起こり、炎症が起こると考えられています。