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04クローン病の治療には
どんなものがあるの?

監修 東邦大学医療センター佐倉病院
内科学講座 教授 松岡 克善 先生

クローン病の原因は腸内細菌や食事などの環境要因がきっかけとなり、腸内の免疫の異常が起こり、炎症を引き起こしていると考えられていますが、詳細は明らかにされていません。そのため、現在ではクローン病の根本的な治療はありません。環境要因を改善する「栄養療法」と免疫の異常を改善する「薬物療法」が中心となります。

クローン病治療の目標

活動期と寛解期をくり返すクローン病では、症状を抑え、さらに炎症のない状態を維持することが目標となります。炎症が強いときは、速やかに炎症を抑えるための「寛解導入療法」をおこない、自覚症状がない状態を維持する「寛解」を目指します。症状が落ち着いていたとしても、さらに粘膜の炎症がない、正常な腸に近い状態を目指して治療を続けます。その後、「寛解」の状態を保つために「寛解維持療法」をおこないます。

治療による炎症のコントロール
治療による炎症のコントロールのイメージ図
イメージ図
Colombel JF, et al.: Gastroenterology, 152(2): 351-361(2017)より改変

クローン病の炎症が起こるしくみ

クローン病が発症する原因は特定されていませんが、炎症を起こしている腸壁では、免疫機能の異常により、インターロイキン(IL)-12やIL-23、TNF-αというサイトカインが過剰に作られていることがわかっています。これらサイトカインの刺激により、腸管の粘膜に慢性的な炎症が引き起こされます。

クローン病の炎症が起こるしくみのイメージ図 IL-23:インターロイキン-23。サイトカインの一種。
サイトカイン:細胞同士の情報を伝達するタンパク質。免疫機能に大きく関わる。
Th17:ヘルパーT17細胞。リンパ球の一種。
TNF-α:腫瘍壊死因子-アルファ。サイトカインの一種で炎症に関わる。
IL-17:インターロイキン-17。サイトカインの一種で、腸内の免疫のバランスに関わる。
IL-22:サイトカインの一種で、腸内の免疫のバランスに関わる。

クローン病治療の進め方

炎症を抑えるための「寛解導入療法」では、薬で治療する薬物療法や栄養剤を使った栄養療法をおこないます。薬物療法では、症状の程度によって使う薬が変わります。炎症が治まったら、「寛解」の状態を保つため、薬物療法を中心に「寛解維持療法」をおこないます。穿孔や腸閉塞、膿瘍などの合併症がある場合、手術が必要となることもあります。炎症が落ち着いたあとも、定期的な通院や治療を続け、再燃がみられても、早く気付いて治療することが合併症を防ぐことにつながります。

クローン病の治療の進め方の図
令和3年度 改訂版 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針. 厚生労働科学研究費補助金
難治性疾患政策研究事業. P39, (2022)をもとに作図

薬物療法

5-ASA(5-アミノサリチル酸)製剤

クローン病治療では、はじめに使う基本の薬です。炎症の起こっている場所に直接はたらき、抗炎症作用を発揮します。過敏症や腹痛、頭痛などの副作用があらわれることがあります。

ステロイド薬

ステロイド薬は炎症や免疫反応を抑える作用があり、さまざまな病気の治療に使われています。長期で使用すると、ムーンフェイスと呼ばれる顔が丸くなる現象や、皮膚症状、感染症、糖尿病、骨粗鬆症にかかりやすくなるなどの副作用があらわれることがあります。

免疫調節薬

ステロイド薬からの切り替えや寛解維持療法に使われる薬です。過剰にはたらいているリンパ球のはたらきを抑え、免疫を抑える作用があります。炎症に直接作用するわけではないため、効果があらわれるまでに2~3カ月程度かかりますので、使い続けることが必要です。

生物学的製剤

免疫調節薬を使用しても改善がみられない場合、生物学的製剤を使用します。寛解導入療法、寛解維持療法どちらでも使用されます。体の免疫のはたらきを弱めるため、風邪などの感染症にかかりやすくなります。
・抗TNF-α抗体製剤:炎症を引き起こす体内物質TNF-αに結合してはたらきを抑え、炎症の改善が期待されます。
・抗IL-12/23モノクローナル抗体製剤:IL-12とIL-23の共通した部分に結合し、両方のはたらきを抑えることで腸管の炎症の改善が期待されます。
・抗IL-23モノクローナル抗体製剤:IL-23のみに結合し、はたらきを抑えることで腸管の炎症の改善が期待されます。
・抗α4β7インテグリンモノクローナル抗体:免疫細胞であるリンパ球が腸管粘膜に入り込むためには、インテグリンと呼ばれる分子が必要となります。インテグリンに結合して、リンパ球が腸管粘膜に入り込み、炎症を起こすのを防ぎます。

各薬剤のはたらき
各生物学的製剤のはたらきのイメージ図

経腸栄養療法

体に必要な成分を口から又は鼻にチューブを通して栄養を補給する治療法です。腸の機能が低下している患者さんは栄養の吸収がうまくできないため、栄養剤を使用して、腸の負担を軽減します。また、経腸栄養療法に用いられる栄養剤は、炎症を引き起こすとされる脂肪の含有量が少ないため、炎症が強いときに、薬物療法と並行して治療をおこないます。

成分栄養剤

消化を必要としない栄養素で作られています。脂肪分が少なく、食物繊維が含まれず、タンパク質がアミノ酸にまで分解されているため、腸への負担が少ない栄養剤です。独特なにおいがあるため、専用のフレーバーを使って服用します。

消化態栄養剤

タンパク質がアミノ酸2~20個ほど結合したペプチドにまで分解されていて、少量の脂肪分を含みます。成分栄養剤に比べると消化が必要ですが、ほとんど消化を必要としない栄養剤です。

半消化態栄養剤

消化機能を必要とする成分で作られています。タンパク質は分解されていないため消化態栄養剤より消化が必要ですが、脂肪の含有量が少ない栄養剤です。

血球成分除去療法

クローン病では、免疫細胞の一つである白血球が過剰にはたらくことで炎症を引き起こしています。血球成分除去療法は、特殊なフィルターやビーズを使用して血液中の白血球を減らし、免疫の機能を抑える治療法です。静脈から血液の一部を取り出し、白血球が除去された血液を反対の腕の静脈から戻します。薬物療法や栄養療法で効果が不十分な場合におこなわれます。

血球成分除去療法のイメージ図

外科治療(手術)

薬物療法で症状が改善しない状態が続くと、狭窄、腸閉塞、瘻孔、膿瘍などの合併症を発症することがあります。このような場合には外科手術が必要となります。合併症についての説明はこちらです。